人生で一番衝撃的だった本

確か中学生のときだったと思います。模試かテストか何かで国語の問題の随筆文を読んだときに、私は大きな衝撃を受けました。

 

それは、筆者がバングラディシュでの食事をした経験を書いたエッセーでした。

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筆者はバングラディシュの首都ダッカで食事を求め歩いていた。ダッカ駅前の広場の屋台で、十数円で骨付き鶏肉、マトンがたくさん載ったご飯が売られているのを発見し、筆者は飛びつく。現地の習慣に倣い、右手の指を使ってご飯を食べた。次に骨付き肉を口に運ぼうとしたとき、突然「ストップ!」というさけび声が聞こえ、「それは、残飯なんだよ。」と言われる。

 

言われてみれば、肉には歯形がついており、ご飯にも指で押ししごかれた跡がついていた。食事の周りには腐敗臭消しのための線香が焚かれていた。

 

筆者が皿を放り出すないなや、少年が皿を奪い取り、肉に噛みついた。

 

ダッカには、金持ちが残した食事の市場がある。金持ち達の結婚式の披露宴の食べ残しが残飯市場で売られるのである。残飯の主な消費者はスラムの住人か、リキシャ運転手の一部である。ダッカには、残飯を買い、食す人々がおり、さらにゴミ捨て場を漁っている子供たちもいる。残飯すら食べられずに命を落とす人もいる。

 

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世の中には誰かの残飯が商品となっている地域がある、それを当たり前のように食べて生きている人々がいる、ということに大きなショックを受けました。そこに描かれている人々の「食」は、あまりにも自分の「食」とかけ離れたものでした。

 

読みながら、この本を買おう、と心に決めました。しかし、その時の私は、どんなに大きな衝撃を受けても真面目に問題を解かなければいけず。問題に集中し、私はタイトルと筆者を確認するのを忘れてしまいました。。

 

その後のことはよく覚えていないのですが、探したけど見つからなかったのか、買おうと思ったことも徐々に忘れたのか、とにかくその本には出会えませんでした。

 

大学生になってから、ある友人に『もの食う人びと』という本を勧められ、買いました。平成9年に発行された古い本でした。

 

買ったその日の帰り道、電車の中で『もの食う人びと』読んでいたら乗り過ごしてしまいました。物凄い引き込まれ、物凄い衝撃を受けたからです。

 

その本の第一章は、”あの国語の試験のエッセー”だったのです。

 

私は大学で国際協力の勉強をしました。2回目に『もの食う人びと』のダッカの話を読んだとき、中学生の時のあの国語の問題が、世界のしわ寄せのしわが沢山寄っている部分を知り、興味を持った最初のきっかけだったんだと思いました。

 

『もの食う人びと』は、貧困に焦点を当てた話ではありません。筆者が「食べること」をテーマに様々な国を旅し、見たもの、聞いたもの、感じたことをリアルに書いています。飢餓もあれば、優雅で高級な食事もあり、兵士の食事もあり、刑務所の食事もあります。「食べること」が最大のテーマではありますが、この本では筆者が出会った「もの食う人びと」の生活や過去、その地の歴史、文化などについても語られています。

 

因みに、この本によると、当時東京では日々、50万人分の一日の食事量に匹敵する残飯が捨てられていたそうです。

 

日本では、今でも年間約643トンもの食品ロスがあり、これは1300万人の東京都民が1年間に食べる量に匹敵するといいます。(※1)

 

 

 辺見庸さんの『もの食う人びと』。食べることが好きな方、社会問題に興味のある方、世界の文化や歴史に興味のある方などに是非読んでみてほしい一冊です。 

 

 

※1 食品廃棄物・食品ロス対策|東京都環境局